メニュー

あの日の速度を追い越してすぎていった七年を区切る日付変更線

[2025.08.25]

七年前の夏のおわり。
いまもよく覚えている。

名古屋のセミナー会場で、携帯電話がふるえた。
ああ、もうきたか。
そう思ったとき、世界の色がすこし淡くなった。
声も、光も、すべてが後ろにさがっていった。

新幹線にのり、窓の外をながれる景色をただ見ていた。
時速二百七十キロで過ぎていく風景のなかで、心だけが妙に落ち着いていた。
青い屋根、ひろい田んぼ、遠くの山。
ひとつずつ置き去りにしていくみたいに過ぎていった。
でも、心はふしぎなくらい落ちついていた。
数時間後、次女は小さな産声をあげて、こちら側にやってきた。

生まれてすぐにアデノウイルス感染症で入院がつづいた。
勤務先の病院だったから、上司のはからいで、病室へよく通うことができた。
病室までは消毒液のにおい、静かな機械音、蛍光灯の白。
眠る小さな体を見つめると、時間はのびたり縮んだりして、不思議なかたちをしていた。

末っ子の彼女は、兄と姉に囲まれて育った。
声をかけられ、抱きしめられ、笑い声に包まれて。
寂しさより先に、安心を知った子どもだった。

そして今日。
パーティのまんなかにはプーさんのケーキが登場し、ろうそくの火がちいさくゆれて、うたをうたう。
ツイスターゲームをしながらみんなで笑った。体操をやっているから、みんな息がながい。
時間が、ただまぶしく過ぎていった。

なつかしさと、すこしのさびしさを胸にのせて、
夜中の診察室でひとり、昨日から今日への日付変更線をまたいだ。

七年前の今日と、音もなく重なる。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME