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うすい光のなかで

[2025.04.12]

3月の第5土曜日、4月の第1土曜日と2週続けて土曜日に診療があった。
それは、ただのカレンダー上の事実にすぎない。数字としては「+1日」だ。
でも、実際にその中で動いていた人間の体と心は、たぶんもう少し複雑な計算をしている。
ぼくたちは、予定通りに働きながら、予定以上に疲れていたりする。

金曜日、診療がすべて終わって、パソコンの画面を静かに閉じる。
最後のミーティングで、気がつけば
「土曜日2週連続だったから、今週末は、ゆっくりしてくださいね」
言おうとしていたわけじゃない。ただ、自然と、ことばが落ちてきた。
その瞬間、部屋の空気がふわりと揺れた気がした。
たぶん、それでよかったのだと思う。

ふだん僕は、ねぎらいの言葉を惜しむほうだ。
それを言わないことで保たれるバランスも、たしかにあると思っている。
でも、ときどきは、そういう言葉がすっと出る日もある。
たぶん、それくらいのゆらぎが、ちょうどいいのかもしれない。

この週末、スタッフのみんなはそれぞれの「ふだんとは違う時間」を過ごしているかもしれない。

たとえば、お気に入りのスウェットで犬と散歩しているかもしれない。

こどもと一緒に少し遠くへ出かけて、高速道路でサービスエリアを見つけるたびに「寄ってみようか」となって、気づけば名物のコロッケを片手に笑っている。
計画通りには進まないけど、それが旅のいちばんおもしろいところだったりする。

堂々たるコスプレイヤーは、今日も推しの世界に全力で向かっているだろう。衣装を大量に詰め込むその音が、朝の静けさを優しくたたく。おそらくその集中力とエネルギーは、ふだんの仕事のそれとまったく同じ強度かそれ以上だ。

夕方にはちょっと早めに、家族みんなでテーブルを囲む時間も今日は少しだけ長くなるかもしれない。炊きたてのご飯の湯気と、焼き鳥のタレの香りと、グラスの中でアルコールと氷が踊る音。いつもはバタバタしている夕食が、子どもと今日見た景色を話し、旦那と「明日はどうしようか」と話し合う。そんな時間の中では、飲むお酒は、ただ酔うためのものじゃなくなる。

大きな何かをする必要なんてない。
特別な成果も、計画も、いらない。
制度やルールの外側で、自分たちのリズムで過ごす週末。
そこにある光は、強くはないけれど、春らしくあたたかい。

その光のなかで、深呼吸をひとつ。
平日の喧騒を休ませてあげるのもいいと思う。

僕はこうしてうすい光の中でランダムに流れる音楽に包まれながら、2週間分の書類を片付け、アニメーション動画を創り、最後にこんな文章を書いている。
午後には海釣りに行くのだから。

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