ララバイではなかった、アザミ嬢のララバイ ~ラジオから流れてきたのは、子守唄の名をした孤独のうた
朝のラジオから、聴き覚えのあるメロディが流れてきた。
「アザミ嬢のララバイ」。
印象的なそのフレーズに、
「あ、これ、子どものころ車の中でよく聴いたやつだ」と、胸がばくばくした。
父親だったか母親だったか、どちらかがきっと好きで、
車に入れっぱなしのカセットテープにはいっていた曲だったんだろう。
中島みゆきさんのデビュー曲だったんだね。
まだ僕がサッカーを始める前、テニスを習っていたころの話だ。小学校1、2年生の頃かな。
家からそう遠くないテニスコート。
竹藪を抜けた先にあって、今思えば少し神秘的な場所だった。
そこへ向かう車の窓の外に流れていた風景と、
あのころの空気の匂いまで、ふわっと戻ってきた。
「ララバイ」という響きが、やけに耳に残る。
でもその意味を知らないまま、大人になっていた。
どちらかというと、父親が口ずさんでいたような気がする。
調べてみる。
びっくりした。
ララバイ(Lullaby)は英語で「子守唄」って意味だったんだ。
ゆったりしたテンポで眠気を誘うメロディ。
赤ちゃんや小さな子どもを寝かしつけるときに歌う、やさしくて穏やかな歌。
そうか、あれは子守唄だったのか。
知らないうちに、僕は車の後部座席で、
子守唄にあやされていたのかもしれない。
土曜日の朝に、三十年前の僕が戻ってきた。
あのころの両親の年齢に、今の僕は立っている。
はやいもんだな。
あのころの僕も、今の僕も、
同じララバイを聴いている。
じゃあ、「アザミ嬢」ってなんだろう。
今さら気になって調べてみた。
古代バビロニアで―
「子どものできない女性、あるいはあえて子どもをつくらない女性」のことだという。
ラジオを止め、You tubeで曲をかける。
「ララバイ ひとりで眠れない夜は
ララバイ あたしをたずねておいて
ララバイ ひとりで泣いてちゃみじめよ
ララバイ 今夜はどこからかけてるの
春は菜の花 秋には桔梗
そしてあたしは いつも夜咲く アザミ」
これは子守唄じゃなかったんだ。
胸がしめつけられる。
