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音の少ない家をあとにして ほんの少し遠くへ

[2026.05.03]

ゴールデンウィーク、子どもたちは体操の合宿に出かけていった。
家の中から、いくつかの音がきれいに抜け落ちた。

静かになった、というよりは、音の密度が変わった、というほうが近い。アレクサの奏でる音楽や、お湯の沸く気配が、いつもより少しだけはっきりと聞こえる。

僕と妻は、その空いた場所を無理に埋めようとはしなかった。こういうとき、不思議と会話は増える。内容はたいてい、とりとめのないものだけれど、それでちょうどいい。

コーヒーを淹れて、本を開き、少し話して、また黙る。2人で少し遠出をして、見知らぬ街を歩き、ドライブをして、景色を眺める。子どもがいるときとは、まるで別の時間が流れている。

妻は僕よりも感性が豊かだ。
静かな街の中にひそんでいる、小鳥のさえずりを見つけて、そっと教えてくれる。

そのあいだに、「村上春樹雑文集」を読みはじめた。

どうしてこれまでこの本に出会わなかったのだろう、とふと思った。発刊された2011年1月30日といえば、その2ヶ月後には大学を卒業したタイミングでもあるし、個人的な節目と同時に、世界は大きく揺れ、僕はその混乱のど真ん中にいた。

まだ読み終えていない。むしろ、ようやく読みはじめたくらいだ。時間はかかるだろうし、少し手間もかかる。僕にはうまくサイズの合わない靴みたいな雑文もあるかもしれない。

それでも、なにかがあるような気がしている。

そんな雑文集をぱらぱらと読みながら、こうしてブログを書く時間が、愛おしい。
頭の中を村上春樹が静かに整理整頓してくれて、僕の「読みたい」言葉で紡いでくれる。普段の自分の喉からは出てこない、かりそめの言葉や文章が、カタチになっていく。

また子どもたちが帰ってくれば、音は元に戻る。そして僕らは、たぶん同じように日々を過ごす。

ただ、その中に、ほんの少しだけ違う静けさが混ざる気がしている。

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