駐車場を取っていなかったけど、大丈夫だった ~忍野八海へ行かないともぐりだと言われる富士山マラソン
高校時代からの親友の一家と、河口湖で開かれる富士山マラソン大会のため、山中湖のホテルに七年越しで集合した。
集合前、僕ら家族は河口湖に立ち寄り、人の波に揉まれながら受付を済ませた。
車に戻って中身を確認したとき、違和感に気づいた。
ゼッケンを留めるはずの安全ピンが、ない。
すぐに友達に電話をした。
「安全ピン、入ってなかったんだけど」
すると友達は、なぜか落ち着いた声で、それを把握していた。
そんなことがあるのか、と一瞬あせる。
仕方なく、ホテルに着いてから僕はひとりでコンビニへ向かった。
コンビニにはなんでもある、とはよく言うけれど、このときほどその言葉を信じたことはない。
案の定、安全ピンはあった。
とりあえず、難題のひとつめはクリアだ。
次に立ちはだかったのは、駐車場問題だった。
明日の会場の駐車場は完全予約制。
そして僕らは、二人そろって予約をしていなかった。
前夜のうちに、予定は静かに組み替えられた。
その日の天気は、雨、ときどき雪。
悪天候のせいか、親友の奥さん—彼女は彼女で、僕の大学時代の親友でもある—が頭痛を起こし、夕食を途中で切り上げるという小さなアクシデントがあった。
早めに到着していた僕ら一家は、奥さんが気持ちよくお酒が飲めるようにと食事前に風呂に入っていた。
まだ2歳の子がいる友達一家は食後に入るという。
それなら、と僕は食後にももう一度、風呂へ行った。
親交を深める、という名目で。
結果、僕だけ温泉に二回入った。
湯気の中の友達は、何も変わっていなかった。
最近はフットサルもやっていないらしい。
家を買う予定があり、今はその勉強ばかりしているという。
彼はこれまでにフルマラソンを四回走っている。
自然と話題はマラソンになる。
七年前、僕らは二人とも走っていなかった。
話はよく弾んだ。
温泉に二度入った夜は、いつもより少し長く眠れた。
マラソンを終え、僕らは再び電車に乗った。
富士山駅から忍野八海へ向かう。
奥さんと子どもたちは、その隣の水族館で待っていてくれた。
合流して、忍野八海へ。
「ここに行かないと、もぐりだって言われるぞ」
友達がそう言うから、じゃあ行っておこうか、という流れになる。
僕ら九人は忍野八海で、ほうとうを食べた。
走り終えた体に、あたたかい汁が、静かに染みていった。
