マンカラ3日目、本気の1勝1敗
今夜も、マンカラをした。
もう“ついで”じゃない。本気でやっている。
こどもが寝たあとの時間は貴重だし、仕事の前にやるべきことなんて山ほどある。
でも、それでも、盤を出す。
もはや日課じゃなくて、儀式というより、決闘に近い。
今夜の1戦目は、僕が負けた。
負け方が、よくなかった。
あと2手先が見えていれば防げた一手だったのに、相手の意図に気づかないまま、石を撒いてしまった。
気づいたときには、もう向かいの妻の指が迷いなく動き始めていた。妻の石は最後のポケットからごっそり持っていかれていた。
「うわぁ…」と、声には出さずに思った(悔しくて声に出したくなかった)。
向かいの妻は静かに笑っていた。
口元だけで。
本気で勝ちにきているときの、あの笑い方だった。
それでスイッチが入った。
2戦目は、集中した。
さっきの悔しさを、石のひとつひとつに込めるようにして撒いた。ただ石を撒くんじゃなくて、相手の撒き方のリズムを読んで、自分の盤を“整地”していくような感覚。盤を見つめながら、先回りして、裏をかいて、またそれを裏返して。
途中、妻が一瞬だけ手を止めた。
そのとき、勝てるかもしれないと思った。
勝った。
妻も悔しさからか言葉を発しなかった。
その姿に僕のさっきの悔しさは昇華された。
たった1勝。でも、深い1勝だった。
今夜も1勝1敗。
盤を片づける手は、すこしだけ誇らしかった。
そして、僕は仕事に向かう。
さっきまで石を撒いていた指先で、今度はキーボードを叩く。