月と散文
もう15年近くも遡らないと、研修医だった頃に戻れない。
とても好きな番組があった。「ピカルの定理」だ。僕は3階に住んでいて、同じマンションの4階に住んでいた友達の家で何曜日だったか(たしか月曜日だったような)夜11時くらいから2人でテレビの前で毎週爆笑していた。そして、ただただしゃべって、1日が終わる。大学に入る前にも予備校の寮で同じような生活をして、変わったことは、その友達の部屋でお昼寝をしなくなったことや、その友達の部屋にわざわざ自分の部屋から布団を持ってきて、ベッドの隣にひいて一緒に寝ずに、必ず自分の部屋に帰って寝るようになったということだ。
それまで、あんまりコント番組を見てこなかったので、新鮮で、この番組を楽しみに1週間を過ごすほどに僕はピカルが好きだった。
この番組をきっかけにピースの又吉直樹さんをウォッチするようになった。その頃、ちょうど清水に来てライブをやることがあったので、それにもたしか一人で行った(だれかと行ったのかも知れないけれど、よく覚えていない)。まさかそれから、芥川賞をとるとは思わなかった。芥川賞がどれくらいすごいかはよく知らないけれど、「蹴りたい背中」や「ヘビにピアス」、「コンビニ人間」は読んだことがある。
それからも、普段はあまり読まない小説も又吉さんの小説は全部読んだ。人間臭さが、僕の身体に自然に染み込んでくるし、現実世界から違和感なくその世界に迎え入れられてしまい、時を忘れて読める。
今、又吉さんの「月と散文」という散文を読み終えた。小説と違って細切れの散文だったので、ちょっと馴染みのない部分で足止めをくらって、足元に目を落として過ごしていたら、なかなか本を手に取れずに、時間が経ってしまっていた。もっとのめりこんで、早く読み終えてしまうことがとても悲しくなるような、とても面白い本だったと思う。
あの頃、無邪気にテレビの前でただ笑って過ごしていた時からもう15年くらい。結婚して、岡山に行き、子供が生まれ、浜松に寄り、富士にいる。その間に様々な出来事があった。大きく変わった日常に、なにも変わらない自分を引き摺って、少しずつ感度を合わせて毎日を過ごしている。
熱を出して体操を休むつもりの無邪気にゲーム音を鳴らし続ける息子の横で、読書感想文でもないただの散文を書いてみた。